はじめに
2026年3月18日、厚生労働省は「保保発0318第1号、年管管発0318第1号」を発出し、
法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いを明確化しました。
本記事では、この通知の内容に基づき、いわゆる「社会保険料削減スキーム」の問題点と、それに伴う見落とされがちな年金上のリスクについて整理します。
1.「役員スキーム」とは何か
インターネット(You TubeやSNS)上で、「一般社団法人の役員に就任するだけで、国民健康保険より保険料が安くなる」
個人事業主やフリーランスを対象に、このような社会保険(健康保険・厚生年金)に加入させるスキームを目にしたことはないでしょうか?
この仕組みでは、法人からは低額の役員報酬を支給、一方で、会費や手数料名目でそれを上回る金銭を徴収といった形が取られることがあり、結果として本来負担すべき国民健康保険料等と比較して、保険料負担を抑えることが可能となっていました。
今回の通知は、このような取扱いに対して、「実態がなければ被保険者資格を認めない」という姿勢をを明確にしたものです。
2.被保険者資格の判断基準(報酬要件と業務要件)
通知では、被保険者資格の判断について、以下の2点を基軸として総合的に判断すると整理されています。
・業務要件:経営参画としての実態を伴う労務の提供があるか
・報酬要件:業務の対価としての報酬が経常的に支払われているか
その上で、具体的に以下のような場合には、要件を満たさない可能性があると明示されています。
■ 報酬要件に関する例
法人に支払う会費や手数料が、受け取る役員報酬を上回る場合
→ 業務の対価としての報酬とは認められない可能性があります。
■ 業務要件に関する例
①アンケート回答や勉強会参加など、自己研鑽にとどまるもの
②単なる情報共有や活動報告など、役員としての具体的な指揮監督や権限の行使に当たらず、それ自体が直接経営に参画しているといえないもの
③事業紹介への協力などにとどまっており、労務提供義務を伴わないもの
また、業務要件を満たすかどうかを判断する要素としては、
・指揮命令権を有する職員の有無(具体的な業務について指揮監督する従業員や他の役員がいるか)
・決裁権を有する所管業務の有無(担当する業務について決裁権があるか)
・役員間の取りまとめや代表者への報告業務の有無(役員会等に出席し、役員への連絡調整を行っているか)
・定期的な会議への出勤頻度(会議に参加し、求めに応じて意見を述べるにとどまっていないか)や会議に参加する以外の業務が他にあるか、その業務のためにどれくらい出勤しているか
といったことが挙げられています。
3.資格否認と法的効果
実態として法人に使用されていると認められない場合、被保険者資格は否認されます。
また、事実と異なる資格取得の届出は、健康保険法および厚生年金保険法に反するものとされ、罰則の対象となる可能性があります。
なお、罰則は主として事業主に対するものとされています。
さらに、調査の結果、不適当と判断された場合には、過去に遡って資格喪失とされることがあります。
4.見落とされがちな年金上のリスク
■ 事例
実際に、知り合いの職人さんで、腎疾患により人工透析が必要な状態となったにもかかわらずで国民年金保険料をきちんと納付していなかったため、障害年金を請求できなかったケースがあります。
人工透析は、要件を満たせば障害年金の対象となり得る状態ですが、保険料の納付状況によっては、請求できないことになります。
■ 制度の仕組み
年金は、「貯蓄」だけではなく「保険制度」であることも認識しておく必要があります。
そのため、保険料の納付状況が給付の可否に直接影響します。
障害年金は、障害の程度だけで判断される制度ではありません。
「障がい者手帳を交付されたから、障害年金も受給できるだろう」と考えておられる方もおられます。
原則として
「初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること」
が求められます。
■ 今回の通知との関係
厚生年金の被保険者資格が遡って否認された場合、当該期間については国民年金への加入が必要となります。
しかし、国民年金保険料は原則として過去2年分までしか遡って納付することができません。
その結果、それ以前の期間は未納として扱われる可能性があります。
この未納期間のために納付要件を満たせず、障害年金を請求できなくなる可能性があります。
また、保険料の未納は「遺族年金」への影響もあります。
未納があったために、万が一のことがあった場合に大切な家族を守れないことにもなりかねません。
5.本通知の意味
本通知は、形式的な役員就任による社会保険加入について、「実態」に基づいて判断する姿勢を明確にしたものといえます。
本件は「保険料の問題」だけではなく、「被保険者資格と将来の給付にかかわる問題」でもあります。
まとめ
年金は、貯蓄ではなく保険制度です。納付状況が、いざという時の給付に直結します。
制度の抜け穴を探すより、ご自身の働き方に合った制度を正確に理解して選ぶこと。
それが結果として自分と家族を守ることにつながります。














