労働基準法施行規則の改正により、新たに資金移動業者への賃金の資金移動による支払い(○○ペイなどのデジタルマネー)が認められることになりました。
賃金のデジタル払いを導入するかどうかは自由です。
賃金支払いには原則があります(賃金支払いの5原則)。
①通貨で
②直接(本人に)
③全額を
④毎月に1回以上
⑤一定期日に
上記のうち、「①通貨で」についての例外には
金融機関等への口座振り込みや現物支給などがありますが、
今回の改正で「デジタル払い」が追加されることになったということです。
企業に求められる手続き
1,労使協定の締結
2,個々の従業員への説明及び同意取得
労使協定で定める必要のある事項
1,対象となる従業員の範囲
2,対象となる賃金の範囲及びその金額
3,取扱指定資金移動業者の範囲
4,実施開始時期
デジタル払いの概要
1,デジタル口座とは
・第2種資金移動業者が提供する決済用の口座
電子マネーのようにそのまま買い物に使うことができる
ビットコインなどの暗号通貨や現金化できないポイントでの賃金払いはできない
・厚生労働省に申請し、認められた業者が提供する口座が使える
(現在はPaypay株式会社や楽天ペイメント株式会社等が指定申請している)
2,デジタル口座での受け取り
・受取額は従業員が個々に定めることができる
(月に5万円など、賃金の一部という設定も可)
・デジタル口座の残高は、ATM引き出しや銀行口座への送金によって少なくとも月に1回は手数料なしで現金化できる
・口座の有効期限は、最終利用日から10年
3,デジタル口座の残高上限
・上限は100万円
超過分はあらかじめ登録しておいた銀行口座に送金される
(この処理は、デジタル口座を提供する業者が行う)
賃金デジタル払いのメリット・デメリット
<メリット>
・振込手数料の削減
・先進的な取り組みをアピールできる
・外国人従業員への給与支払いが容易になることが期待される
(銀行口座等のハードルが高い場合があり、その問題の解消。ただし、口座の上限を超えた場合の送金先として又は指定資金移動業者の破綻時に保証機関から弁済を受けるためには口座開設は不可避)
・賃金を現金で支払っている企業にとっては、賃金払いのデータを管理・処理しやすくなる
<デメリット>
・導入までに一定のコストがかかる
・経理部門の負担が大きくなる
・手間がかかる割に、生産性向上や経費節減につながるわけではない
賃金デジタル払いは必要?
冒頭でも書きましたが、賃金デジタル払いは任意です。
三菱総研DCS株式会社が、今年5月から6月にかけて自社の人事給与システムを利用している企業の人事給与業務担当者に対し行ったアンケート結果によると、有効回答数312社のうち12.8%が早期に賃金デジタル払い導入に向け、早期に導入を検討していることがわかったそうです。(引用:12.8%の企業が「給与デジタルマネー払い」早期検討開始の意向 ~人事給与担当に独自アンケートを実施~ https://www.dcs.co.jp/news/2023/230725.html)
この数字が多いか少ないかはなんとも言えませんが、そもそもまだサービスを提供する第2種資金移動業者が厚生労働省のサイトに公表もされていません。
現段階では、上記のメリット、デメリットも勘案しつつしばらく様子を見て、運用のノウハウが積み重なってから検討しても遅くはないのではないでしょうか。
(令和5年8月)